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blog 迷子のままに:

山下耕平(やました・こうへい)
NPO法人フォロ事務局長、不登校新聞社理事など。

不登校、ひきこもりなどを中心に、書いてます。
一部は「なるにわブログ」から引き継いでます。

   
カテゴリー「雑記」の記事一覧

『名前のない生きづらさ』刊行にあたって

なんだか、もやっと生きづらい。名前(肩書き)がなくて生きづらい、あるいは自分でも名づけようのない生きづらさを感じている。そういう感覚は、いまや多くの人が共有しているものになっているように思います。しかし、そんなことを言っていると、専門家からは、「不登校」「発達障害」「ひきこもり」「ニート」などなど、いろいろに名づけられて対処されてしまいます。でも、どれもこれも、当事者の実際とはズレているように思えます。

このたび、『名前のない生きづらさ』という本を出しました。

共著者の野田彩花さんは、そういった名前と自分とのズレを、その裂け目に深く深くダイビングするように潜って、そこから言葉をつむいで書かれています。無礼な名づけの呪縛を、身をよじってほどいている、と言ったらよいでしょうか。

私のほうは、「不登校」だとか「ひきこもり」だとか、名づけのいちいちを問い直しました。教育機会確保法と不登校とフリースクールなどの「ねじれ」についても書いています。

また、「なるにわ」の活動についても、1章を設けています。本書も、「なるにわ」というお庭に茂った枝葉のひとつとも言えます。「なるにわ」を知っていただく機会にもなればと願っています。

とはいえ、本を買うにも、お金のかかるもの。懐事情の厳しい方は、図書館にリクエストしていただければ、と思います。また、読んでくださった方は、忌憚のないご意見ご感想をお寄せいただけると、たいへんありがたいです。よろしくお願いします。


マーケティングが奪ってしまうもの。

フリースクールなどを運営していて、これが成り立ってきたのは奇跡的だと思うことがある。なぜなら、学校に行かせたい、勉強させたいと思っている親の価値観と逆立しながら、そういう価値観と異なる場所を開いて、そこにお金を出してもらってきたからだ。公的な場で、子どもが無料で利用できるというのであればよいのだが、そうはいかないなかで、親の価値観と逆立しながら、その親からお金をもらって運営してきたのだ。ただ、逆立というのは対立ではなくて、異なる価値観がぶつかるところで、ていねいにコミュニケーションしながら、そこで生み出される信頼関係があって、だからこそ成り立ってきたのだと言える。


●「いい親」ほど鈍感?

多様な教育機会確保法案が出てきたとき、懸念したことのひとつは、親子でニーズが対立的である場合もあるのに、保護者に主権を持たせてしまっていることだった。たとえば、子どもはとにかく休みたいと思っているのに、保護者が別のかたち(個別学習計画)で学ばせようとして、そこにお金も出るとなれば、子どもは追いつめられてしまう。

いいことをしていると思っている親ほど、子どもと自分のニーズのちがいに鈍感なことも多いように思う。それが学歴主義であろうが、オルタナティブ教育であろうが、変わりない。多くの場合、親は子どもを自分の思うように育てたいと思ってしまっている。それが子どもの不登校などによって手ひどく裏切られて初めて、親は自分の価値観を問い直してきたのではないだろうか。


●マーケティングがきらいなのは

私がマーケティング的な発想がきらいなのも、そのあたりにある。「お客さま」のニーズに応えようというとき、そこには価値観の逆立もなければ、異なる価値観どうしのコミュニケーションもない。子どものニーズが親と異なる場合でも、お金を出すのは親だから、親のニーズに応えることしかできない。

あるとき、「ラーメン屋に来た客に寿司を出してどうするの」と言われたことがある。消費者の求めているものと異なるものを提供してちゃ商売にならない、ちゃんと消費者のニーズをリサーチして、それに応えないといけない、ということだ。商売としてはもっともだろう。もちろん、フリースクールなども運営していかないといけないので、商売の側面もある。親のニーズを無視してはいけないし、矛盾や葛藤はたくさんある。でも、だからこそ、その矛盾や葛藤を手放してはならないのだと思う。
 

社会がマーケットになればなるほど、サービスは多様化するが、多様な価値観がせめぎあう場はなくなっていく。多様な教育機会確保法案で問題になったのは、その論議でもあったように思う。よそのことだったら問題は見えやすいし、大きな社会状況として、問題を指摘することはたやすい。問題は、自分たちの足場で、いかに葛藤し、もがくかではないだろうか。

トランプ、壁、イエモン……

連日、トランプ大統領が騒ぎになっている。アメリカの内と外に「壁」を立てて、アメリカの内側を守るというのが、その政策方針なのだろうが、内と外に「壁」を立てたがるのは、トランプ氏だけではないだろう。身近なところにも、そうした「壁」はあふれている。

たとえば、「壁」の内側に所属している正社員は社会保険なども含めて手厚く守っても、外側に属している非正社員は、低賃金で不安定雇用でも、仲間ではないから、その苦境に心を痛めることもない。市民運動やNPOなどでも、意見のちがいなどから「壁」をつくって、その内側では連帯するものの、いったん外に追い出した人は攻撃の対象になることも、ままある。

岡目八目で、よそのことだったら、誰でも「壁」は不毛だと思う。でも、自戒を込めつつ言えば、自分たちの立てている「壁」には、おそろしく鈍感になっているのではないだろうか。

紅白歌合戦で、THE YELLOW MONKEYが歌っていた。
外国で飛行機が落ちました
ニュースキャスターは嬉しそうに
「乗客に日本人はいませんでした」
「いませんでした」「いませんでした」
僕は何を思えばいいんだろう
僕は何て言えばいいんだろう
(「JAM」/作詞・作曲:吉井和哉)
自分の声が「壁」の向こうに届かないとき、その「壁」は自分の前に立ちはだかって、よく見える。でも、自分自身がさまざまな「壁」の向こうの声を聴けていないことには鈍感だったりする。誰しも、そういうところはあるのだろう。少なくとも私は、そんなに賢くないので、自力では気づけなかったことも多々ある。だからこそ、「壁」が揺るがされたときは、自分の立てている「壁」に気づける機会なのだと思う。揺るがされたことに腹を立てて、「壁」を高くするようなことだけはすまいと思う。

総活躍から逃げられますように。

アベノミクスとかいうワケのわからないものに、フリースクールも不登校も巻き込まれてしまった。2016年は、教育機会確保法案が迷走のあげくに成立し、TPP関連法案も成立し、どさくさにまぎれてカジノ法案まで成立した。アベノミクスというのは、日本の経済が立ちゆかないなかで、とにかく何でもかんでも規制緩和して、市場にできるところは、どこまでも市場化していこうということなのだろう。

資本主義は末期状態にあって、実用性のある商品が飽和状態になって売れなくなっているなか、イメージだけで売れる商品として教育が商品化されていると、佐々木賢さん(元定時制高校教員)は指摘されていた。それは詐欺みたいなもので、だから教育は根本的に疑わないといけないのだ、と(不登校50年証言プロジェクト#07佐々木賢さん)。

そういう意味では、カジノもいっしょだろう。実体経済ではまわらないから、ギャンブルで経済を活性化させようというのと、イメージだけで教育を商品化して売っているのと、大差はないと言える。フリースクールというのも、イメージだけが肥大化して、「未来のエジソンやアインシュタインを発掘」するといって安倍政権に支持されて、義務教育を市場化していくための道具にされてしまった。フリースクール関係者のなかには、それを歓迎し、教育機会確保法は「一歩前進」だと喜んでいる人もいるが、なぜ喜べるのか、私にはわからない。

一億総活躍というのは、みんなを市場に放り込んで、そこでがんばらせたいということだろう。がんばりたくない人は許されない。がんばれない人も指弾される。だから、過労死やうつが問題になっている。必要なのは、活躍しなくていい場所、「総活躍」から撤退できる場所で、それが保障されることだ。「一億総活躍」に巻き込まれることをもって前進だというのは、「進め一億火の玉」に邁進することと変わらないのではないか。

当面、市場化の進む社会を止めることは難しそうだ。でも、アベノミクスなんて世迷い言を信じて錯覚さえしなければ、逃げ道をつくりつつ、もがいていくことはできるだろう。石川憲彦さん(精神科医)も、「もがくしかない」「破綻からがスタートだ」と言っていた(不登校50年証言プロジェクト#09石川憲彦さん)。

なんだか大仰な書き方をしてしまったが、「不登校50年」だった2016年が終わる前に、こんなことを書きとめておきたかった。来年は、少しでも多くの人が、少しでもがんばらずに済む年でありますように。

 ※イラストは、イラストACで「活躍」で検索したら出てきたもの。山岸シュンスケ作

プロフィール

HN:
山下耕平
性別:
男性
自己紹介:
埼玉県生まれ。大学を中退後、フリースクール「東京シューレ」スタッフを経て、1998年、『不登校新聞』創刊時から、2006年6月までの8年間、編集長を務めた。また、2001年10月、フリースクール「フォロ」設立時より、同事務局長を務める。2006年10月より、若者の居場所「コムニタス・フォロ」を立ち上げ、コーディネーターをしている(現在は「なるにわ」と名称変更)。2009年2月、『迷子の時代を生き抜くために』を上梓。

拙 著


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